泡沫眼角-ウタカタメカド-
* * *
携帯電話の奥で無機質なコール音が響く。
『―…はい』
出たのは、低い低い男の声。
望んだ相手が出たことで彼の口は弓なりに上がった。
「よぉ、決心はついたか?」
『……』
「信じられないってか。無理もないな。だがお前に送ったもの。それが証明だ」
『……』
受話器の向こうの沈黙が、困惑のそれに変わる。
やがて、戸惑い気味な声が響いて来た。
『でしたら、何故こちらにお姿を見せて下さらないのですか? 一目見れば、ついていく者も多いでしょう』
「死んだはずの人間がひょっこり出てきたら怖いだろ?」
『しかし――』
「オレは、」
彼は一段と低く、凄みを聞かせた声を出した。
「お前が必要だ。今、それ以外にはいらない」
沈黙。
男の中で様々な感情が入り乱れているに違いない。
しかし彼には確信があった。
奴なら、必ず受けると言ってくる。
『……わかりました』
「やっぱりな。恩にきるぜ」
『では、――』
「待て、その名で呼ぶな!」
『しかし…』
これを告げるのは正直辛い。
しかし、名を呼ぶことは許されない。
「オレのことは…ファントム、とでも呼んでもらおうか」
『ファントム殿、で…?』
そう呼ばれるとなんかダサい。
「相変わらず、頭の固い奴だな…
まあいい。落ち合い次第、行動開始だ」
彼は――ファントムは電話を切った。
「さぁ…始めようぜ…」