泡沫眼角-ウタカタメカド-
表向き
言乃の情報提供から数日。
警察は大きく動かざるを得ない日を迎えた。
「…なんか、ちょっと怖いなあ…」
恵は一人、事件現場に近い駅前のロータリーできょろきょろと辺りを見回していた。
「ごめん、待たせたわ」
「あ、いえ! ぜんぜん待ってないです!」
首を大きく振って否定を送る相手は朋恵。
まさか刑事さんと行動を共にするなんて…
一人青くなる恵であるが、これには理由がある。
二日前だ。
恵と言乃に朋恵から、捜査協力してもらえないかと依頼が入った。
内容を聞いてみると、次の日曜日に駅前で市長選挙に立候補する人々による演説が行われる。
そこに比津次会と禅在組の人間が現れると警察は読んだ。
そこで、群集にまじりそれとなくヤクザを監視するという。
通常の警備に加えた作戦。
人手は多いほどいい。
その追加要員として(密かに)呼び出されたというわけだ。
【どうして警察はそのように?】
その話を聞いて、言乃は当然疑問をぶつけた。
『今回行われる市長選挙。それぞれの立候補にはバックヤードがつくもんだけど、うち二人のバックにいるのがこの比津次会と禅在組だってわけ』
『そんな? 暴力団と組むなんて犯罪行為じゃないですか!?』
そのような団体とかかわるのは暴力団法によって禁止されている。
近年それが強化されたことはまだ記憶に新しい。
言いたいのはこっちだというように朋恵は顔を背けた。
『奴らの隠れ蓑であるフロント企業がバックについてるだけで、おおっぴらに付き合ってるわけじゃないのよ。だから下手に手出しできない訳』