泡沫眼角-ウタカタメカド-
明るく否定しながら心が痛む。
吉野が見ているのは、自分ではない。

仮初のバカ話をしつつ、階段を上り二人は地上へ出た。


吉野は腕時計を見て、

「そろそろか」

「演説のことか?」

尋ねると真剣な顔で駅前のロータリーを見つめて頷いた。

「今回出た三人のうち、一人はウチのフロントがバックにいんのさ」

「やくざが支援てヤバくねーの?」

そうなんだけどな、と吉野はポケットから箱を取り出し目線を向ける。
頷くと、箱から煙草を一本取り出してくわえた。

「お隣の禅在さんがうち一人のバックについたもんだからよ。市長を味方につけて好き勝手やられたらオレたちも困る訳よ。
んでま、牽制の意味を込めてな」


――バリバリ張り合ってどこが牽制だか


「今よくないこと思ったろ」

「思ってねー」


………

気持ちが溢れ出しそうでいたたまれなくなって、目をそらす。


「じゃあ、今忙しいんだな」

「まぁ…な。この市長選挙に組員の殺された事件。しかも、殺された金子はスパイだったときたもんだ」

「そりゃ、御愁傷様…」


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