泡沫眼角-ウタカタメカド-
彼らが街へ消え行くのと同じ頃、吉野は再び車の側へと行き着く。
そこで自らの目を疑った。
「、なっ…」
車が荒らされている。
バックの窓ガラスを破り、中は大変なことになっている。
「これは、一体――ぐっ!!」
不覚にも後ろを捉えられ、腕をとられる。
だが、危険な世界で生きてきた人間の端くれ、簡単に捕まりはしない――。
拘束を解くと正面から向かってくる。
掴むついでに顔を隠すフードを取り払った。
「んのっ……野郎っ―― !!」
吉野の動きが、止まった。
それは――見覚えがあるどころじゃない。
「っ!」
相手はすばやくフードをかぶり直して、茫然自失としている吉野を壁際まで追い詰め首を取った。
「なんで――」
「……」
返事の代わりに、目を逸らされる。
不意に、吉野の体を激しい痛みが襲った。
喉だ。
一気に朦朧とする意識の中で、目の前の人間の手に金槌が握られているのが見えた。
「―――!!」
叫べない。
喉がやられて、液体が逆流してくるままに、落ちる。
ゆっくり、体が床に崩れると、それは背を向けて遠ざかっていく。
吉野には、息が吸えずにヒュウと音を立てる喉と、虚しさのみが残る。
――……
僅かに持ち上げた腕が、遠ざかる背中に伸びる。
動かない。
パタリ、
あまりに軽い音で、それは地に落ちた。