泡沫眼角-ウタカタメカド-
でもやっぱり、知らない。
「…誰?」
人影はやれやれと頭をかきながら、炯斗に近づく。
男性だ。
年は、恐らく炯斗よりは上だろう。
髪の毛は首の辺りで切り揃え、長い前髪の左目にかかる辺りだけ金髪に染めている。
前髪で顔がよく見えなくて、何だか不気味だ。
『名乗る名はない』
「えー、何それ…ケチ」
『えっ、そういう問題か?』
その男はカチューチャを出して、前髪を無造作に上げた。
ようやく顔が見えてホッとしたのか、炯斗は友人に接するように口を尖らせる。
「名前くらいいいじゃん。不便だしよ」
『変な奴…』
毒気を抜かれてしまったのか、男は呆れ顔で肩をすくめた。
「ホラ、んで、あんたなんての?」
『……ファントム、と言っておく』
「偽名かよ! どう見ても日本人だろお前! ハーフにも見えないでごまかせると思うな!」
男の舌打ちと青筋が立つのと同時、
――ガスッ!
『うっせ! んじゃ名乗らないぞこの野郎!』
「いってぇ!!」
炯斗の脳天に拳骨が落ちた。
「暴力反対だ!」
『じゃあ文句言うな!』
「……はい」
涙目の訴えもあっさり却下された。