泡沫眼角-ウタカタメカド-
そんなことをポツリポツリ考えていると、高橋は伝票を取った。
「ごめん、屋代さん。やっぱり下まで降りていいかな?」
人混みではまともに言乃と会話出来ないこと、全体を見渡せることを踏まえた位置。
定期的に連絡は来ているはずだが、やはりここでは情報が少ない。
万一の対応も、素早く出来ない。
言乃のことは気掛かりだがここは――
高橋の意図をすぐさま汲み取った言乃は笑顔で頷いた。
高橋は本当に申し訳なさそうに小さくごめんね、というとすぐに会計に向かった。
席を立ちながら、言乃は感心して高橋の背中を見つめる。
――私のことなんか、気にしなくていいのに
優しさに、感謝。
暖かな気分になりながら自分の分の料金を払うことも忘れずに、二人は下まで降りる。
久しぶりに降りた外は、冷たい風が吹き抜けた。
風に誘われるように向いた先――
――どこか、懐かしい気分がします……
風の先を追おうと足踏み出し一歩。
「な、なんですって……?」
高橋の、弱々しい声に、ピクリと動きを止めた。
目を見開き、唇からすっかり色が失せている高橋は、蚊の鳴くように返事を返して電話を切った。
【何かありましたか?】
「ごめん、ちょっと走るよ!!」