悪魔のようなアナタ【完】



午後。

灯里は3Fに用意された自分用のデスクに座り、去年のパンフレットを眺めていた。

玲士が作ったというそれは写真と文字のバランスが良く、内容も簡潔でわかりやすい。

去年作ったということは玲士は入社2年目でこれを作ったということになる。

入社2年目でこれだけの資料を作れるとは、やはり普通ではない。


「灯里」


後ろから声を掛けられ、灯里は顔だけ振り返った。

恐ろしいことに既にこの声にも慣れてしまい、振り返らなくても誰だかわかる。


玲士は午後からずっと別件の打ち合わせに入っており、灯里は半分放置されていた。

玲士は3F奥にある小会議室の方をくいと親指で指差し、淡々と言う。


「行くよ。ノートパソコンとそのパンフを持って来て」

「……って、どこへ?」

「行く場所はひとつしかないでしょ。おれは忙しいの、時間をとらせないで」


玲士の言葉に灯里の心の片隅で危険信号が灯る。

――――なんだか嫌な予感がする。


玲士は会議室の方に向かってスタスタと歩いていく。

灯里ははぁぁとため息をつき、仕方なくその後に続いた……。




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