悪魔のようなアナタ【完】
「美味しいね、このカクテル」
「ならよかった。食前に向いているものを適当に選んでみたんだが……」
「晃くんはお酒とか詳しいの?」
「アメリカにいた時に親父にいろいろ連れまわされてな。それなりに詳しくなった」
晃人はふっと一重の目を細めて笑う。
晃人の面差しも瞳も昔の面影を残してはいるが、こういう大人っぽい表情を見たことはない。
灯里は一瞬ドキッとし、それを隠すように慌ててカクテルを傾けた。
「なんか不思議だね。まさかこうして一緒に食事できるなんて思ってもみなかった」
「そうだな。俺もお前に再会できるとは思ってもみなかった」
晃人は言いながらすっと灯里の頬に手を伸ばした。
大きな掌が灯里の頬をそっと慈しむように撫でる。
灯里は突然の感触に一瞬びくっとしたが、晃人の手の懐かしい感触に目元を和めた。
昔のように気安い関係ではないとわかっていても、晃人に触れられると自分は幼い頃の自分に戻ってしまう。
晃人の包容力が自然とそうさせるのかもしれない。
晃人は灯里の頬に手を添えたまま、灯里の瞳をじっと見つめる。
その瞳に次第に熱がこもっていくのを灯里は吸い込まれるように見つめていた。