悪魔のようなアナタ【完】
「水澤く……」
書庫に入り声を掛けようとしたところで、灯里は足を止めた。
書庫の奥、決算資料が置いてある棚の前で玲士が資料をめくっている。
その横顔は真剣で、資料を見る視線は氷のように鋭い。
――――氷の王子。
美しくも冷たいその横顔はまさにそんな雰囲気だ。
灯里の視線の先で玲士はゆっくりと顔を上げ、入ってきた灯里に視線を流す。
「……3分遅れ」
玲士は唇を歪めて笑う。
氷の刃で獲物を突き刺すような鋭い視線に、灯里は思わず背筋を強張らせた。
「おっ、遅れたって……3分じゃん!」
「たかが3分、されど3分。3分あればウルトラマンも世界を救える」
「…………」
「というわけで、今日の昼飯は決定だな。行こう」
いつのまにか近寄ってきた玲士に腕を取られ、灯里は書庫から引きずり出された。
昼休みの静まり返った廊下に、灯里の切ない悲鳴が延々とこだました……。