悪魔のようなアナタ【完】
12:30。
灯里は会社から歩いて5分ほどのところにあるイタリアンレストランにいた。
洋風の瀟洒な店内の窓際の席に陣取り、窓から差し込む陽光の中、優雅にランチ……。
と傍からは見えるだろう。
しかし。
灯里は恨めしそうな顔でランチについてきた全粒粉のパンをちぎって口に放った。
焼きたてのパンの香ばしい香りが食欲をそそるが、目の前に座る男の顔を見るとため息しか出ない。
「はー……っ」
「なに? ため息ついて。美味しい料理に、目の前にはイケメン。最高じゃない?」
「イケメンって……自分で言うわけ?」
灯里はがくりと肩を落とした。
これで財布を出すのが自分でなければまだマシだったのかもしれない。
玲士の姿は店の中でも目立つらしく、周りの席に座った女性達がチラチラと視線を送っている。
正直、代われるものなら代わりたい。
玲士は周りの視線をまるで気にすることなくフォークを優雅な手つきで操っている。
二人が頼んだのは『本日のランチ』。
5種類の中から選ぶパスタにパンとサラダ、ドリンクがついて\800。
さほど高いわけではないが、まだ新人の灯里には手痛い出費だ。