悪魔のようなアナタ【完】
3.夏の夜の夢
夜。
蔵王の温泉旅館に入った一行は用意された宴席で山形の味覚に舌鼓を打っていた。
宴席と言ってもテーブル席での食事で、いつもの飲み会のような雰囲気だ。
灯里の会社では女性がお酌をするという文化はあまりない。
しかし香川さんはむしろそういうのが得意らしく、各部署のテーブルを転々と回っている。
「すごいなぁ、香川さん」
「あはは、彼女は昔から好きだからね、こういう席が」
灯里の隣に座った山岡課長がビールグラスを片手に上機嫌に笑う。
顔も赤く、だいぶ出来上がっている感じだ。
灯里は商事部の端の方の席で出された料理を味わっていた。
芋煮も蕎麦も風味があり、とてもおいしい。
ぱくぱく食べる灯里に山岡課長が自分の分の皿も差し出した。
「いい食べっぷりだね~。ぼくのもあげるよ」
「えっ、そんな」
「いいからいいから。どんどん食べて~」
あはははと笑いながら山岡課長は灯里の卓にカタンと皿を置く。
どうやら課長は酒が入ると笑い上戸になるらしい。
灯里は礼を言い、置かれた皿にさっそく箸を伸ばした。