悪魔のようなアナタ【完】
この会社は、西に山脈を東に太平洋を擁した地方都市の一角にあり、灯里は生まれてからずっとこの町で育った。
会社は街の中心にあるJRの駅から南に3キロほど行ったところにあり、灯里は毎日駅近の市街地にある実家から電車と徒歩で通っている。
就職時は運悪く氷河期だったが、実家から通える範囲にある会社に正社員として就職できたのはラッキーだったと言える。
「そういえば野中建設のエアコンだけど、あれの工賃ってどうなってる?」
「えっと……ちょっと待っててくださいね、見てみます」
灯里は自分のデスクに座り、机の真中に鎮座しているノートパソコンに目をやった。
販売管理のソフトを起動して内容を確認する。
「もともと来週末で終了予定だったんですけど、相手先都合で納品が延びたので再見積してるところです」
「了解。見積できたらぼくに頂戴」
「はい」
灯里は元気よく返事し、頷いた。
ついでに販売管理ソフトで他の案件状況を手早く確認する。
「あの、山岡課長。この間の見積は……」
「ああ、あれ。OKもらったよ。明日ぐらいに指示書作るからちょっと待ってて?」
灯里の向かいに座った恰幅の良い男性がのんびりと資料をまとめながら言う。
山岡課長。55歳。
灯里がこの部署に配属になってからずっとお世話になっている上司で、だいぶ生え際が後退した頭が窓から入る日差しの下で眩く輝いている。
おっとり、のんびりした気質で一緒に仕事をしているとたまにイラッとくることもあるが、灯里とはわりと波長が合っている。