悪魔のようなアナタ【完】
部屋に入った灯里に晃人が声をかける。
晃人は黒っぽいスーツに薄いブルーのカラーシャツ、ネクタイを身に着けている。
いつにも増して大人っぽいその恰好に灯里は思わずドキンとした。
ほんのりと漂うスパイシーなブラックティーの香りも晃人によく似合っている。
灯里はバッグを入り口近くの棚に置き、コートを脱いで晃人の向かいの椅子に座った。
「遅れてごめんね、晃くん」
「いや、突然誘ったのはこちらだ。すまないな、灯里」
「ううん。私も久しぶりに晃くんといろいろ話したかったしね」
灯里が笑いながら言うと、晃人も柔らかい笑みを浮かべた。
晃人の一重の瞳は一見鋭く見えるが、笑うと柔らかい印象に変わる。
――――昔から見上げていた、晃人の瞳。
こうして瀟洒なレストランで向かい合わせに座るとは数か月前には予想もしていなかった。
「まずは何か飲むか。何がいい、灯里?」
「うーん、軽くておいしいお酒がいいかな」
灯里が言うと、晃人はお酒のメニューの中から灯里が好みそうなものを選んで自分の分と合わせてオーダーした。
いつものことながら、スマートだ。