悪魔のようなアナタ【完】




灯里の背に玲士の胸が当たる。

はっと見上げると、頭の上にさらっとした玲士の前髪が触れた。

かつてないほど密着していることに気づき、灯里は反射的に背筋を強張らせた。


「ちょ、ちょっと、あんた……」

「黙んなよ。ほら、もう始まるよ?」


シッと言い、玲士は会議室の壇上を指差す。

見ると社長や他の役員に囲まれて新しい取締役が入ってくるところだった。


その男性はグレーのスーツを着、艶やかな黒髪を固めすぎない程度にまとめている。

うっすらと日に焼けた肌には均等に筋肉がついており、スーツの上からでもその体格の良さは一目瞭然だ。

切れ長の一重の目に、意志の強そうな口元。

優しげな雰囲気ではあるが、全身に切れ者という雰囲気が漂っている。


男性は強い光を浮かべた瞳でぐるりと社員達を見渡す。

その顔を見た瞬間、灯里は思わず呟いた。



「――――晃くん?」



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