悪魔のようなアナタ【完】
灯里は昔から花より団子ならぬ『酒より団子』だった。
酒は物によっては美味しいと思うが、基本的に酒の美味しさには疎い。
健康的と言えば健康的なのだろうが、子供っぽいといえば子供っぽい気もする。
『お酒を片手に煙草をふかすキャリアウーマン』に憧れた一時期もあったが、今では自分にはとても無理だと諦めている。
やがてウェイターが料理を運んできた。
晃人が頼んだのはアボガドと生ハムのサラダと白身魚のカルパッチョで、どちらも灯里の好物だ。
晃人は取り皿を寄せ、手際よく料理を取り分けて灯里の前にカタンと置いた。
「ありがとう」
「お前、トマトは相変わらずダメか?」
灯里はハハと苦笑した。
アボガドと生ハムのサラダにはトマトが添えられていたが、それは晃人の皿の上にある。
灯里は昔からトマトがダメで、トマトが出た時にはいつも晃人が自分の皿に回収してくれた。
「うん。なんか、その味がどうもね……」
「まあ、食べなかったら死ぬというわけでもないからな。別の野菜で栄養を取ればいい」