悪魔のようなアナタ【完】
二章
1.大人になった幼馴染
一週間後。
定時後、灯里は通勤用の鞄を片手に会社の門をくぐった。
ふと見上げると夕陽が辺りの木々を照らしている。
初夏の夕暮れの中、まとわりつくような湿った空気が辺りを包みこむ。
灯里は鞄を持ち直してゆっくりと駅の方へと歩き出した。
その時。
「灯里」
後ろから声を掛けられ、灯里は足を止めた。
振り向くと、会議室で見た男――晃人が立っていた。
晃人は紺色のスーツを着、ビジネスバッグを片手に灯里の方へと歩み寄ってくる。
耳を震わすバリトンの声も、その意志の強さを感じる眼差しも……。
晃人の全てが昔の思い出を思い起こさせる。
灯里は晃人を見つめたまま凍ったように立ち尽くした。
「久しぶりだな、灯里」
「晃くん……」