悪魔のようなアナタ【完】
灯里は反射的に書類を奪い取った。
頬に血を昇らせ、信じられないといった表情で目の前の男を見る。
どこか楽しげな視線を灯里に向けるその男は……。
水澤玲士。25歳。
灯里の同期で現在は経営企画室に所属している。
大学時代に国際会計検定で800点をマークした、この会社にはもったいないぐらいの逸材だ。
癖ひとつないサラサラの黒髪に朝の湖を思わせる透明感のある黒い瞳。
身長は灯里より頭二つ分ほど高く、すらっとした均整のとれた体にグレーストライプのスーツが良く似合っている。
はっきり言ってこの地方都市に生息しているのが不思議なほどの美形だ。
「それ、予算に実績が反映されてない。やり直し」
「……っ……」
「サル並みのお前の頭でも、数値を写すだけならできるでしょ? 終わったら持ってきて」
玲士は言い、ヒラヒラと手を振って廊下の向こうへと歩いていく。
灯里は資料の端をぐっと握りしめてその背をキッと睨みつけた。