悪魔のようなアナタ【完】
廊下の奥から響く低いテノールの声に灯里はびくっと振り向いた。
見ると、玲士が呆れた顔で歩み寄ってくるのが見える。
「何でこんなに時間かかってるわけ?」
「……」
「サル並みって言ったけど、マジでサルだった? ……いや、ミジンコ並み?」
「……っ」
「悪い。おれ、サルとはまだ意思疎通できそうだけどミジンコとは無理だ」
「うるさ――いっ!」
だん!と灯里は反射的に机を叩いて玲士を睨みあげた。
あまりに酷い言い草にカッと頭に血が上る。
だいたい定時に上がる予定だったのに仕事を持ってきたのは誰なのか?
と怒りで顔を真っ赤にした灯里を一瞥し、玲士は驚いたように言う。
「ミジンコがしゃべった」
「……殺されたいのアンタ?」
殺気を漲らせ呻く灯里を玲士の透明な瞳が静かに見下ろす。
怒り心頭の灯里に比べ、玲士の表情は氷のようだ。
言うなれば、熱湯と氷。
溶岩と氷河。
水と油。
――――やはりこの男だけは絶対に理解できない。