悪魔のようなアナタ【完】
近い距離にいるせいか、玲士の甘いウッドノートの香りが鼻先をかすめる。
灯里は恐怖に心臓を引き攣らせながらも、負けてなるかと玲士を睨み上げた。
「さて。貸しだけどどうやって返してもらおうかな?」
その心底楽しそうな笑みに、灯里は背を壁にこすりつけるように後ずさろうとした。
玲士はそんな灯里をまじまじと見下ろし、麗しの唇を開く。
「……そんなに逃げたいわけ?」
「……」
あたりまえだ!
と言いたいがこの状況ではとても言えない。
無言の灯里に、玲士はその透明感のある瞳をゆっくりと細めて笑った。
「そこまで警戒されると、さすがにおれも傷つくよ」
全く傷ついているようには見えないにこやかな笑みを浮かべ、玲士は一歩、また一歩と灯里の前に近寄る。
やがて玲士の手がとんと灯里の両脇の壁についた。
腕に挟まれた格好になり、灯里は思わず背筋を凍らせた。
まるで獲物を捕獲するかのような瞳に胸が壊れんばかりの勢いでドクドクと動き始める。