永遠の愛
「正直あたしは、まだ父だと認めたくなくて…」
「……」
「不思議なんです。小さくても記憶ってものは残るはずなのに、初めて会ったかのように父の顔も覚えてなくて声すら覚えてなかったんです。10歳とかの年齢にもなれば覚えてるのに全然記憶すらなくて…」
「……」
「だから認めたくないんです」
「……」
「けど、昔使ってた苗字だけは覚えてた」
だからと言って、顔なんて知らないから認めたくないの。
絶対に認めたくないの。
「美恵さん、言ってたわよ。あの人の事を許した訳じゃないけど、でも美咲の存在を覚えていてくれた事に嬉しかったってね。…そう言ってたわよ」
「……」
「あの美術館の、あの絵の前でいつも語ってた。きっとお母さんにとって大事な場所だったんだね。“留学したいんです”って、そう学生の時に行って語ってた頃と同じ大切な場所だったのかも知れないわね」
「……」
「帰る時はね、“すみません、こんな話して。でもスッキリしました”っていつも言ってたの」
「そう…なんですか。母は何も語らなかったので」
“人間って複雑ですね…”
ポツン付け加える様に呟いた言葉に、岩崎さんは薄らと笑みを零す。
「だからきっと果てしないんだね」
「…え?」
「一日一日が違ってて、その違う事に意味があるの。だから大切にしないとね…」
岩崎さんの向けられた笑みが何だかとてつもなく温かく感じてしまった。
時間を忘れるほど話し込んでたあたしは翔に電話をし、3時を丁度に家を出た。