嘘つきヴァンパイア様
序章
始まりの刻
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『く、呉羽(くれは)様!た、大変です!』
ドンドンドンと、大きな扉を思いきり叩き返って来るはずの返事が返って来る前にその声の主は扉を開ける。
部屋の中には、彼を驚いた表情で見つめる男とあからさまに嫌悪感を浮かべる男がいた。
はぁっ、はぁっ。と、呼吸を乱しながら彼らの前まで来ると乱れた息を整えようと男は膝に手を置き肩を上下させる。
その男を目の前に嫌悪感を浮かべた男は度の入っていない眼鏡をクイッと押し上げた。
『ルカ、返事をする前にドアを開けてはノックをする意味がないでしょう。だいたい、なんですか?その取り乱した態度は。我らが王に向かって失礼ですよ』
薄いフレームの眼鏡を押し上げた手を腰に当てながらそう言う。男に隣りにいた呉羽と呼ばれた男はクスリと笑い男の肩を叩いた。
『ユノ、いい。ルカはこうやつなんだから」
『しかし、呉羽様…』
『それより、ルカ。そんなに急いでどうした?また、城下で問題でも?』
呆れたように手に持っていた本をテーブルに放り投げ、長く真っ黒髪の毛を耳にかければ銀色のリングピアスが月光に照らされ光った。
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