嘘つきヴァンパイア様


とても、気持ち良く眠れた気がした。

暖かくて、落ち着いて、苦しみなんて、何も感じなかった。


何故だか、今更気恥ずかしくなり、顔を伏せれば、呉羽な気にもしない様子で彼女の額に手をそえ、片手で頬を包み込む。

「大分、熱はさがったな。身体は怠くないか?」

「う…うん…」

「………そっか」

沈黙が流れた。

気まずい沈黙ではない。どこら、安らぎを感じる沈黙だった。


何も、お互い口を開こうとせず、涼子は再びその胸に身を委ねると、呉羽はそれを受け入れるように抱き締める。


涼子が眠った時と、何一つ変わってはいない。約束通り、呉羽はずっと涼子を抱き締めていたのだ。


その事実も嬉しいのに、涼子はまだ離れたくなかった。


もっと、この温もりに包まれたくて、ぎゅうと胸元の服を握りしめた時、沈黙していた呉羽がいう。


「約束だ。起きたなら、御飯と薬を飲め」

「…ぁ」

(そうだった。そんな約束をしたんだった。食べたくない…まだ、こうして触れ合っていたいのに…)


握ったまま、離れようとしない涼子に呉羽はわざと聞こえるようにため息をはくと、身を少し動かし、何かを手にした。


そのまま涼子の口元に持っていき、押し込むようにその何かを口に入れれば、柔らかく甘い味が広がる。


「んっ…あ、まい」

口元から流れた汁を、指で拭くとまたそれを手に取り、涼子の口元に持っていく。


「これ、って…もも…?」

「あぁ。レシィに頼んで持って来て貰った。甘い果実なら、食べられるだろ…」


「あの…ま、って….んん」


また、口の中に強引にいれられ、甘い味が広がる。その度に流れる汁を拭き、その指をなめ、また、涼子に果実を与えつづける。


その行為は、強引なのにどこか優しくて、触れる指先の繊細さに、涼子の瞳から涙がこぼれた。


「…う…」

「……ぇ?」


口に含んだ果実を飲み込み、流れた涙を隠そうと片手で目を覆おうとした時、その手を呉羽が掴む。






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