政略結婚 ~全ては彼の策略~
しばらくしてから父親が帰宅し、一緒に夕食を食べる。
「お父さん、大事な話って何?お母さんも教えてくれないし、早く教えてくれないと私も気になるよ。」
「ああ、そんなに身構えさせるつもりじゃなかったんだよ。久しぶりに優香と食事したい口実みたいなものだ。」
父親の言葉に、"なんだ、ただ一緒にご飯を食べたかったんだな。"と優香がほっと安心した途端に父親はとんでもないことをサラリと言った。
「優香と神崎の結婚について話をしておこうと思ってな。」
優香の箸はピタリと止まる。
"結婚"という言葉はある程度予測していたため、驚きは少ないが、相手の名前は全く予測していなかったからだ。
かんざきさん……
まさか、そんなはずない。
そう思うが、優香の知っている人間で"神崎"という名前の人物は1人しか心当たりがなかった。
「神崎にも今日来てもらおうと思っていたが、トラブルの対応に呼び出されて来れなかったんだ。神崎が対応してくれているからそっちは問題ないだろうが、結婚の話はまたゆっくりしよう」
父親の話から確実に神崎と言う人物が"彼"であることは明白だった。
「神崎が優香と結婚して、私の跡を継いでくれる日が来るとはな。神崎も二つ返事で了承してくれたから、優香もそのつもりで準備してくれ。」
「神崎さんが、私の息子になることを思うとドキドキしちゃうわ。」
母親も嬉しそうにしている。
この後の話は優香の耳には全くと言っていいほど入ってこなかった。
優香は上の空のまま、自分の幸運はこれで使い果たしたと感じたのだった。