政略結婚 ~全ては彼の策略~
呆然と立ち尽くしている優香に、悟は可笑しそうに笑っている。
「ククッ、優香?百面相してどうした?」
「…い、いえ、なんでもないです……。」
後ろからふわりと抱きしめられたが、すぐに離れた。
「…もう遅い。早く寝ようか。」
「………は、はい。」
悟が残ったビールを飲み終えると、2人で歯を磨く。
どうすればいいのか分からずそわそわしている優香に気付いているのかいないのかは分からないが、悟は特に気にしている様子もなくリラックスしているようだった。
歯を磨き終え、緊張がMAXになっている優香の気もよそに悟はさっさとベッドへ向かって歩いていく。
奥の部屋に入る勇気がなくリビングで立ち尽くしている優香に悟は「…どうした?早く来いよ。」と言ってくる。
どうした?
ではない。
確かに泊まることは分かっていたが、まさか、まさか、悟と同じベッドで眠るという事にまで頭が回らなかった。
………む、むりです。
普段の仕事で見る近寄り難い寡黙な悟とは違い、プライベートの悟は気さくで穏やかだ。
それにも増して、今は完全にオフモードで優香の知らなかった悟が目の前にいる。
ニット素材のグレーと白のストライプが入った上下の部屋着を着ている姿は可愛いのに"男"を感じさせられ怖くも感じてしまう。
優香は持ってきていたワンピースタイプの部屋着の心許なさに後悔しながら覚悟を決めて悟の座るベッドへと向かった。