政略結婚 ~全ては彼の策略~
流れるような動作は美しく、ずっと見ていられると悟は思った。
実際のところ、悟は彼女に見蕩れていた。
"気品"とは彼女のような人間にこそ使われる言葉なのだろう。
今まで生きてきた中で、初めて女性の事を"女神"だと思った。
彼女が笑って動く度にセミロングの透き通った髪がサラサラと光を浴びて色を変えていく。
一目見て、心から"美しい"と思った女性は悟にとって優香が初めてだった。
欲しい
欲しい
彼女が欲しい
悟は優香に心を掴まれ目を離せなくなった。
明らかに年は離れている事は分かったが、それでも彼女に魅力されたのだ。
まだ成人かも怪しい彼女がここにいるということは、誰かの親族だろう。
それが分かれば後は関係を深める手を考えれば良い。
そう思っていた所に、上司で副社長である松橋が先程到着した参加者への挨拶を終えて悟の所へ戻ってきた。
「神崎を紹介しようと連れてきたんだから、今日は挨拶回りで友好のある会社の社長達に顔を覚えて貰うといい。神崎の実家の事を知る者はいないはずだ。」
副社長に気に入って貰えている自覚はある。
良くしてもらっていることには日頃からとても感謝していた。
——ただ、この日ほど自分の幸運に歓喜する事は今後ないだろうと思った。
「まずは私の娘から紹介しようか。…優香、こっちへ来なさい。」
副社長が声をかけて反応したのは紛れもなく"彼女"だったのだ。
——女神が自分を見ている。
悟はどうにか平常心を保つ事で精一杯だった。
「今年初めて招待した神崎 悟さんだよ。お父さんの部下でとても優秀な人だ。これから会う機会が増えるだろうから仲良くしてくれ。」
副社長からの紹介ににこりと微笑むと、彼女は悟がうっとりするほど綺麗な声で挨拶をしてくれた。