可愛いなんて大嫌い
「そんなものないに決まってるだろ!」

「でもしょうがないね。おんぶしようか?」

「絶対嫌だ」

 頑固な葵はせっかくの親切を無駄にする。

「それじゃ先に行くよ」

「ダメー! それも絶対ダメだ!」

「もう」

 その場から動こうとしない葵を、矢神は無理矢理自分の背中にやった。

「こんな姿見られたら葵は明日から学校に行けなくなる!」

「痛っ、痛いって! 暴れないでよ」

 自分の背中で葵という生き物が暴れている。

 親切にしてやったのに、なんとも迷惑な話だ。

 感謝されることはあっても、攻撃される覚えはない。

「ぎゃっ!! あそこ光った!」

「苦しいっ……」

 恐怖のあまり、葵は矢神の首を思いっきり絞めてしまった。

「おおっ、すまん。もっと早く進めないのか!?」

「人の背中に乗っておいて無理なこと言わないでくれる……?」

「お前が無理矢理乗せたのだ。葵のせいじゃない」

 こいつには何を言っても無駄なのだ。矢神は今更それがよくわかった。

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