可愛いなんて大嫌い
 自分が鍵を忘れて家を出たあと、父親も出張のため鍵をかけて出て行った。

 つまり父親が帰って来ない限り、葵は家に入れないのだ。

「……どうしよう。みーちゃんは今日ゴリラんちだし、梨加達の家は知らないし、兄ちゃんちまでは遠いし。野宿か……?」

 年頃の女の子が野宿など、今の時代ありえない。

 先が見えなくて泣きそうになる。ある意味お化けより恐ろしい。

「うち来る?」

「……ふぇ?」

 見かねた矢神が声をかけた。

「行くとこないんだったらうちおいでよ」

 回らない頭を回転させて考える。

(こいつの家……? ってことは)

「おっ、男の家にお泊まりなんて危険すぎて出来るかっ!! しかもよりによってお前の家とは」

「でも行くとこないんでしょ?」

「それはそうだがっ……」

「大丈夫だよ。何もしないから。多分」

「多分ってなんだ!! 信用出来ん!」

「じゃあ俺帰るよ」

 今度こそ本当に1人になってしまう。

 そんなのチキンな葵には耐えられなかった。

「まっ、待て! わかった行く……行くからっ」

< 130 / 131 >

この作品をシェア

pagetop