可愛いなんて大嫌い
 葵は鈍感でかなり鈍いため、噂だなんだと言われてもさっぱりわからない。

 事実、その噂は葵の耳には入っていないのだ。

「だからー……てゆーか葵の隣の席らしいんだけど」

「隣の席だと!? 一体誰の事を言っているのだ?」

 だんだんとノリノリになってきた葵は、身を乗り出して問い詰める。

 みーちゃんの方は野犬を追い払うかのように、渋い顔をしてそれをうざがっている。

「なんかー矢神光っていう、そこらへんの女より可愛い男がうちのクラスにいる、って周りの席の子達が言ってたんだよ。で、そいつ陸上部に入ったらしいから観察してたってワケ」

「その可愛い男が葵の隣の席なのか!?」

「らしいよ」

 みーちゃんの話を聞いた葵は、徐々に表情が険しくなっていき、自分の過去を思い出していた。

(葵は可愛くないからって憎き男に振られたのだ。……それなのに男のくせに可愛いだとっ!?)

「ふざけるな―――っ!! そんな葵は奴認めん! 断じて認めんぞ!」

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