可愛いなんて大嫌い
 葵はこれでも入学試験で二位だった。

 絶対に一位だと思っていたのに、上には上がいた事が悔しくて仕方ない。

 こうなったら猛勉強! と気合いが違うのだ。

 先生の話を一つも聞き逃す事なく、真剣に授業を受けている。

 視線は黒板一点に集中していて、他には何も入ってこない。

(うんうんっ。……なるほどな)

 集中集中と頭にはそれしかなく、隣から小声で声をかけられているのにも全く気付く気配がない。

「……さんっ」

 もう一度声をかけられる。

 しかし、本気で授業に集中している葵の耳にはその声が入ってこないのだ。

「……神田さんっ」

 またもや聞こえていないのか、葵はそのままノートを取り続ける。

「……あ、葵ちゃんっ」

 次の瞬間、葵は隣の席に視線を移した。五秒くらいの間、沈黙が流れる。

「……ききき、気安く葵の名前を呼ぶな―――っ!!」

 今まで何回呼んでも気付かなかったというのに、下の名前を呼ばれた途端、過剰に反応してしまった。

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