可愛いなんて大嫌い
 授業中なので声のボリュームを最小限におとして、威嚇するかのようにガミガミ怒る。

「……俺何か葵ちゃんの気に障るような事したかな?」

「うわぁあ―――っ!! その呼び方はよせっ! 気持ち悪い! 次に呼んだら口を切り刻むからな!」

「あ、ごめんなさい」

 今まで十五年間生きてきて、男に『ちゃん』付けで呼ばれた事がないため、気持ち悪くて鳥肌が立ってきた。

(こ、この男侮れん奴だっ……!!)

 まだ一日が始まったばかりだというのに、葵の気分は最悪になった。

 こんな事なら自分から話しかけるんじゃなかったと後悔する。

「で、俺何かしたかな?」

 葵の気分なんかお構いなしに矢神は聞いてくる。

(そんな覚えはないけど、何か変な事したなら謝らないと)

 矢神はただ謝っておきたいだけであった。

 自覚はないけど、自分のせいで葵を怒らせたのなら謝罪しないと、と思ったのだ。

「何かする、しないって問題ではな―――い!! お前の存在が問題なのだ!」

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