可愛いなんて大嫌い
「喧嘩はダメよ。皆仲良くしなくちゃ」

 そう言ったのは、腰より長い黒髪で、整った顔の少女。

 俗に言う美人だ。まるで日本人形を思わせる顔立ちである。

「喧嘩ー? 誰がだ?」

(てゆーかこいつが誰だ!?)

 葵は未だにクラスメイトの顔を覚えていなかった。

 そして名前もわからない。

「あら、さっきの時間喧嘩してたじゃない。小さな声だけど聞こえてたわよ」

 その黒髪美人はふふふ、と笑ってみせた。

 その笑顔は女の葵でも見入ってしまうほどに美しく、可愛らしい。

 さっきの時間――。

 さっきの時間と言えば、確かに喧嘩みたいな事をしていたような気もする。

 しかしそれは葵が一方的に、ただ怒っていただけではないだろうか。

「喧嘩などではないっ! 葵がそんなガキみたいな事するかっ!!」

「そう? だったらいいけど。せっかく同じクラスになったんだから、皆仲良くしましょうよ。ね? あ、私の名前は九条悠里。よろしくね」

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