可愛いなんて大嫌い
「……そうだよ! 葵の負けだよ! 煮るなり焼くなり好きにすればいいだろっ!!」

「そうだなー……」

 矢神は何にしようか考える。その間、葵は唾をゴクリと飲み込んだ。

「じゃあっ――」

「しょしょ、少女漫画のようなベタなやつはダメだからな! 俺のものになれとか、服従しろとか、そんなの絶対嫌だっ!」

 何でも聞くと言った割に注文が多すぎる。

「何それー? 俺一応常識人だからそんなの言わないよ。それにそんな事しないと、好きな子と付き合えないなんて可哀想な男だよねー」

「……お前もそう思うか? そうなんだよ! 葵はその少女漫画の強引な展開が嫌いなんだよ! 最近みーちゃんに無理矢理読ませられたんだが、いきなりキスしてきた奴に恋するなんて、そんな事あるかっ!! 葵だったらセクハラ容疑で警察に突き出してやるぞっ!」

「…………」

 天敵を前に、一人で熱く語ってしまった。矢神は葵の勢いについて行けず、固まっている。

 はっ! と気付いた時には遅かった。二人の間に気まずい沈黙が流れる。

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