可愛いなんて大嫌い
「えっ、何それ?」

「うるさいっ!! 黙って受け取れ!」

 葵はピンクの包み紙を矢神に向かって突き出した。

(……こんなに綺麗にラッピングまでして、怪しすぎる)

 良かれと思ってやったラッピングは逆効果で、更に怪しさを際立たせた。

 葵は矢神が中身の大失敗マドレーヌを取り出す時を、今か今かと待っている。

 本当は矢神が嫌いだと言った甘い甘いマドレーヌを作るはずだったのだが、それは見事に化けて大失敗作となった。

「どうしたのだ? 早くあけて食えー!!」

 矢神の顔からは冷や汗が流れてくる。怪しさ満天のコイツを本当に食べないといけないのかと。

「うっ……、葵がせっかく作ったんだぞっ……」

 葵はついに嘘泣きに出た。普段は涙など出ないのに、都合のいい目だ。

「わかった、わかった食べるから泣かないでっ」

(バカな男だ。葵の勝利大決定っ!!)

 ニヤリと微笑む葵。こうなったら仕方ないと、包み紙をあける矢神。

< 80 / 131 >

この作品をシェア

pagetop