黒水晶
フェルトの禁断魔術によって裏世界にやってきたエーテルは、その膨大なる自然エネルギーによって、消耗していた自身の生命力を回復させた。
「目が覚めましたか?」
フェルトは柔らかな口調で、エーテルの顔をのぞきこむ。
エーテルは寝そべっていた地面からゆっくりと上体を起こし、
「ここは?」
と、まわりを見渡した。
視界に映る空間は、淡い緑をしている。
他には何もなく、太陽や月もないから、時間も分からない。
フェルトは答えた。
「自然の神が生まれた場所です。
ここへ来たこと、イサ達以外の人には内緒にして下さい。お願いします」
やんわり頼むフェルト。
エーテルは目を見開き、
「わかりました……。
助けて下さり、ありがとうございます」
「いいんですよ。
それでは、マイさん達の所に戻りましょう。
皆さん、あなたのことを心配していましたから……」
「はい……」
エーテルがまばたきした一瞬のうちに、フェルトとエーテルはさきほどの宿へと戻っていた。
食事をしていたマイ達は嬉しそうに頬を緩め、エーテルに駆け寄った。
「よかった!!
フェルトさん、エーテルを助けてくれてありがとうございます!」
マイは感謝の気持ちを口にしたが、イサは難しい顔でフェルトを見ている。
フェルトはそんなイサの視線に気がつかないフリをし、エーテルの耳元に向けてこう言った。
「しばらくは大丈夫だと思いますが、大きな魔術はあまり使わないように注意してください。
マイさんにとって、自分を守ってもらうことよりあなたの命が第一なんですから」
複雑そうな顔でうなずくエーテルを確認すると、フェルトは一同に告げた。
「私は用事があるので、これにて失礼します。
イサ達は食事を楽しんでくださいね。ではっ」
軽やかなステップを踏んだ後、フェルトはその場から消えてしまった。