黒水晶
6‐3 異空間の創造主
エーテルの治癒を終え、彼女をイサ達の元に帰したフェルトは、その足である場所に向かっていた。
イサ達が何ヶ月もの間さ迷っていたという《異空間の源》へ……。
草原へ着くと、フェルトはある一点を見定めつつ、この異空間の創造主に声をかけた。
「出てきて下さい。
長時間こんな魔術を使っていたら、あなたの命も危ないですよ?
それに……。そうやって隠れ続けるというのであれば、不本意ながら、イサ達に本当のこと話しちゃいますよ?」
「それはやめてくれ!!」
そう答えたのは、フェルトよりやや幼い顔をした男の魔術師だった。
フェルトの呼びかけに答えたると同時に、消していた姿をあらわにする。
「あんたは何者だ?」
男はフェルトに訊(き)いた。
「私は、フェルト。
トルコ国民の末裔(まつえい)です」
「トルコ国だって!?」
男はフェルトに詰め寄った。
フェルトはクスリと笑い、
「あなたの魔術は、私と似通うものがあります。
お名前は??」
男はうろたえつつも、
「俺はレイル……。
フェルトさんと同じ、トルコ国の出身だ」
レイルと名乗った男は、フェルトの正体を聞いて、心なしか嬉しそうである。
こわばっていたレイルの顔に、少しだけ微笑みが咲いた。
思わぬ場所で同郷の人間に出会い、フェルトの気持ちも和む。
「そうでしたか。
レイル。やはり君も、トルコ国の出身でしたか」
「なんで分かるんすか??」
見た目だけでなく話し方まで無邪気なレイルは、そう言った。
フェルトはほほえましげに、
「わかりますよ。
こんな風に空間を歪ませる…なんてこと、普通の魔術師にはできませんから。
トルコ国の禁断魔術ですしね」
レイルは目を潤ませ頬を赤くし、
「でも、悪気があったんじゃないんです。
ただ、あいつらを足止めしたくて……」
フェルトはピクリと片眉を上げ、
「あいつら、とは、魔法使いの少女を護衛している、剣術師の少年と魔術師の少女のことですか?」
「はい! そうです!!
あの魔法使いの女の子は、ガーデット帝国に利用されるかもしれないんです!
あいつらはそれを隠して、『護衛する』なんてウソついて、魔法使いの女の子を言いくるめて……!」
レイルの話が気になったので、フェルトは彼の言い分を詳しく聞くことにした。