黒水晶
その頃――。
月明かりが眩しく照り付けるガーデット帝国城内。
執務室の窓から夜の城下街を眺めている国王ヴォルグレイトの元に、剣術師範のカーティスがやってきた。
「……ヴォルグレイト様。
無事に、イサ様との通信はとれましたか?」
「ああ。問題ない」
カーティスは声をひそめ、
「差し出がましいようですが、言わせて下さい……。
イサ様にも、“あのこと”を話さないおつもりですか?」
ヴォルグレイトはカーティスの方を冷ややかな目で見やり、言った。
「私のやり方に異議があると言うのか?
カーティスよ……」
「いえ、そういうわけでは……。
ただ、イサ様は次期王位を継承する覚悟も大きく、あなたのことを心底信じておられる。
そのことを、どうか忘れないでください」
それに対し、ヴォルグレイトは威圧感のある声色で、
「それは、私への反逆か?
それとも、イサへの情ゆえに、父親面をしているだけなのか?」
「け、決してそのようなつもりは!!」
カーティスは怯えた。
ヴォルグレイトは、歳を重ねた重厚な顔立ちに元の涼しげな表情を戻すと、
「今の話は、聞かなかったことにする。
私の判断は、間違っていない。
この国のため、
イサのため、
そして城に住むお前たちのためになるのだからな」
そう言い、月明かりが照らす窓ガラスへと視線を戻した。
しばらくその背中を見つめたあと、カーティスは揺れる瞳で執務室を後にしたのだった――。