黒水晶
7 悲しみの記憶
フェルトが手配してくれた宿に、宿泊すること2日間。
その間、エーテルの体調を気遣い、マイ達は一時的に旅の足を止めていた。
そうできたのも、フェルトのおかげだった。
フェルトはエーテルの体調とマイ達の旅疲れを察し、無期限で宿の宿泊手配をしてくれていたのだ。
イサは、少々怪しいフェルトの好意に甘えるのを不本意に思いつつも、宿に滞在していた。
いつも一方的に現れるフェルトには接触しようがないし、エーテルがまだ本調子ではないので、仕方がない。
その間テグレンはエーテルの看病をし、イサとマイは街の散策に出かけることにした。
イサとしては、何もせずにジッと宿で過ごすより、いろいろ調べて周りたかった。
護衛対象であるマイのそばを離れるわけにはいかず、こうして、自然と二人は一緒に出かけることになった。
この世界の異常事態に関する情報を見つけるための散策だったが、マイは半分浮かれていた。
もちろん、護衛のことなど関係なくイサに協力するつもりでついてきたのだが、こうやって友達と出かけたりした事がなかったマイにとって、どうしても楽しさを感じずにはいられなかった。
イサは目を細め、
「マイは、どんなところに行きたい?」
と、マイに手を差し出す。
そのしぐさに、マイはドキッとした。
「手なんかつながなくていいよっ。
いっつも、つないでないじゃん。
旅の時とかさっ!」
「それはそうだけど……」
イサは不思議そうな顔をする。
初めて目にしたイサの振る舞いに大人っぽさや異性を感じ、マイは顔がひきつったまま固まってしまう。
イサはフッと息をもらすように笑うと、柔らかい笑みのまま、
「城にいた頃、パーティーに呼ばれた時や会談をする時に、こうして女性をエスコートするのがしきたりだったんだ。
だから、クセで……。
嫌な気持ちにさせたのなら、謝る」
そこには、いつもの剣術師的な勇ましい表情ではなく、気品溢れる王子の風格が漂っていた。