黒水晶
マイは、そんなイサに少しだけ疎外(そがい)感を感じた。
“そうだよね。イサはガーデット帝国の、次期王位継承者なんだもんね。
パーティーとか、会談とか、私には聞き慣れない言葉ばかりでよくわからないけど……。
イサにとっては、日常のことだったんだよね……”
イサは、何も言わずにうつむくマイの顔を覗き込み、
「マイ、どうした?
気分悪いか?
どこかで休む?」
と、心配する。
マイはあわてて首を振り、
「ううん! 何でもないっ!
エスコートとか、そんなのいらないからっ。
行こっ。聞き込み、聞き込みっ!」
わけのわからない胸のモヤモヤを吹き飛ばすように、マイはわざと明るくそう言うと、イサの前を歩いた。
イサは少し切なげな顔をした後、いつもの態度に戻り、マイの後についていく。
それから二人は、街の様々な場所で聞き込みをし、少しずつだが有力な情報を手に入れていった。
やはり、この世界がおかしくなったのは、何者かが自然の神のオーラを吸い取っているからだ、という情報が多い。
だが、それを行っている者の正体まではわからない。
そうして自然の神を滅ぼそうと目論(もくろ)む者がいるのは分かったが、ではなぜ、その者はそのようなことをしているのだろうか?
イサはそんな疑問を抱えつつも、散策で得た情報を全て国に届けた。
イサの話す言葉が、剣に白い文字として浮かび上がっては、消えてゆく。
その光景を見て、マイは感嘆(かんたん)した。
「すごぉい。そうやってガーデット帝国に情報を送ってるんだぁ!」
「ああ。一方的なメッセージしか送れないから、会話はできないけどな。
あとは、国からの返事を待とう」
待つまでもなく、ヴォルグレイトからの返事はすぐに届いた。
《イサ、よくやった。
また新しい情報があれば、すぐに伝えてくれ。頼むぞ。》
イサは父からの返事を読み終えると、背中にナナメ掛けした鞘(さや)に剣をおさめた。
“そういえばイサって、お母さんはいないのかな?
そういう話、聞いたことないな”
もしいないのだとしたら、訊(き)いてはいけない気がする……。
マイは黙ったまま、イサの横を歩いた。