黒水晶
街に出てから気になっていたのだが、妙に人の視線が気になる。
マイはイサの横顔をチラッと見つつ、目の動きだけで周りを見た。
やはり、宿を出てからずっと、聞き込みの最中でさえ、街の人々の視線はイサに注がれていた。
マイは気のせいだと思いたかったが、間違いない。
「あのコ、何なの?」
良くない視線が、自分に向かって飛ばされているのが分かる。
それは主に、同世代の少女からの視線だった。
“なんだろ? 私、イサと歩いてたらおかしいかな?
私達、変な格好(かっこう)はしてないと思うけど……”
タジタジしながら、マイは歩を進める。
「マイ、疲れたよな。少し休もっか」
イサはマイの背中を片手でやんわり押し、目の前にあったカフェに入った。
背中の感覚に、マイの胸はまたもや跳(は)ね上がる。
“何か、今日のイサ、いつもと違う……”
二人が丸テーブルの席に着くと、ウェイトレスの少女が注文を取りにきた。
「ここで一番おいしいスイーツって何?」
イサはウェイトレスに質問をする。
“……いつものイサだ。
一人で緊張して、私、バカみたいじゃん”
マイはげんなりした。
ウェイトレスの少女は顔を赤くし、イサの質問に丁寧にこたえた。
イサは、スイーツに目がない。
昨夜宿から出されたデザートも、全て食べ切ってしまったほどに。
「そう。じゃあ、これとこれ、あと、これも」
イサはスイーツばかりを頼む。
ウェイトレスの少女は嬉しそうにイサの注文を取った後、
「あのっ。ガーデット帝国のイサ様ですよね?
私、ファンなんです。
よかったら、サインしてくれませんか?」
そう言い、緊張した面持ちでボールペンと高そうな色紙をイサの目の前にスッと差し出した。
イサは目を見開きしばらくその色紙に目を落としていたが、
「悪いけど、今は任務の真っ最中で、こういったことは禁止されている。
すまない……」
と、謝った。