黒水晶
イサにサインを断られたウェイトレスは、真っ赤な顔で首を横に振り、
「とんでもありませんっ!
私こそ、イサ様に向かってとんだご無礼を……。
お許し下さい……」
「いや、気にするな。
サイン出来ない代わりに、もう一つスイーツ頼ませてもらうよ」
追加注目をした後、イサはポカンとしているマイに声をかけた。
「マイも、好きなモノを頼んで?」
いきなり話しけられ、マイはあわてた。
イサに合わせるように、彼が手渡してきたメニューを見る。
「これ、マイの好みっぽいな」
イサはそう言い、マイの好みの食べ物を言い当てていった。
ウェイトレスの少女はそんな二人を見て眉をひそめる。
「あの……。イサ様……。
そちらの方は??」
「このコはマイ。
任務を手伝ってくれている、大切な人だ」
イサはふんわり優しい顔をしてそう返した。
マイの頬は思わず赤くなる。
“たっ、たっ、大切な人って!?
イサ、とんでもなくダイタンな発言をしたんじゃ……”
マイは一生懸命メニューを見るフリをし、二人の会話に興味がないそぶりをした。
「国の命令で、このコを護衛してるんだ」
イサの言葉を聞き、ウェイトレスはホッとした表情を浮かべる。
「そうですよね。
イサ様、任務がんばって下さいね。
これからも応援してます」
「ありがとう」
二人の会話を聞きながら、マイは思った。
“だよね。「大切な人」って、そういう意味だよね。
ビックリした~。
イサ、言い方がヘン過ぎるんだよ。もう……”
安心しながらも、マイは半分ガッカリした。
なぜ、ガッカリしているのかは分からないが……。
イサがそう受け答えするのは、王族の人間として当然のこと。
深く考えるのはやめ、マイは好きなモノを注文した。
役目を終えると、ウェイトレスは誇らしげな顔で満足げに引っ込んだ。