黒水晶
いつの間に集まっていたのか。
和やかな雰囲気で会話する二人の姿を、街の少女達が遠巻きに見ていた。
その光景にいい加減疲れてきたマイは、
「ねぇ……。あのコたち、何か恐いよ……」
と、背中を丸めた。
ウェイトレスの対応を見て、イサには多くの女性ファンがいることをマイは悟(さと)ったのだ。
イサはマイを心配し、
「ああ……。俺も、こういう雰囲気は苦手だな」
と、視線を下に向けた。
好奇心と興味に満ちた少女達のまなざしは、太陽の熱より熱く強烈である。
全ての物を食べ切ったイサとマイは、少女達の視線から逃げるように店を立ち去った。
街の外れまで歩くと、人の往来が少ない場所へとやってきた。
目の前には、この街で一番高く細長い塔があった。
二人は塔内部の階段をのぼり、屋根のある頂上へとのぼりつめた。
ここには、滅多に人が来ない。
頂上には視界をさえぎる物は何もない。
街の景色だけでなく、遠くの海まで見渡すことができた。
「イサ。キレイだね」
「ああ。この街に、こんな場所があるなんて、知らなかった」
二人は、初めて見る青々とした景色に吸い込まれそうになる。
カフェでの緊迫感は無くなり、二人の会話は自然とはずむ。
イサは、さきほどの少女達の視線にまつわる話をした。
城にいたころからイサは、次期王位継承者として、どんな人間とも、必要であれば友好的に接するようにしつけられてきた。
なので、パーティーや、外国への訪問では、女性とダンスや会話をさせられたりもした。
国の存続に必要なこと。
王子として当然のこと。
そう言われてきたが、イサ自身、そういう振る舞いを負担に感じることもあった。
女性の強引さや物欲しげな瞳に、拒絶感を覚えたからだ。
相手は皆、いずれイサの婚約者になりたいと願い、あの手この手でイサに近づこうとする。
イサには自覚がなかったが、年頃になると、童顔ながらも端正なイサの容姿に、惹かれる女性は増えた。
そして、イサが剣術の腕を磨けば磨くほど、彼女達の熱も増す。
イサは街の男達から嫉妬され、心ないヤジを飛ばされることもあった。
そういう輩(やから)は、ヴォルグレイト国家の反逆者として処刑されていた……。