黒水晶
イサはすぐさまマイの元に戻った。
マイは心細げに、シャッターの閉まったパン屋の軒下に立っていた。
「ごめんな、大丈夫か?」
「私は大丈夫。
イサこそ、平気?
あの人、どうなったの?」
「あれは人間じゃない、魔物だった。
多分、他の魔物に攻撃されて弱っていたんだろう、トドメをさした」
「……そっか。人じゃなかったんだね」
驚きつつも、マイは寂しげにうつむく。
「ショックだったよな……。
俺の落ち度だ。完全に油断してた。
……ごめんな」
「ううん。イサは、充分私を守ってくれてるよ。
そういうのわかってる。
だから気にしないで?
私こそ、魔法使いのくせに情けないよね。
あんなことくらいで取り乱してさ」
「情けなくなんかない。
俺は常に想定しているけど、マイは違うだろ。
慣れないことで疲れもあるだろうし、あんな場面に出くわしたら恐いのは当たり前だ。
………そうだ!
せっかくだし、旅をしがてら、魔法の特訓とかしてみないか?」
「特訓?」
マイが元々生まれ持った、攻撃魔法や防御魔法の能力。
それらを強化することを、イサは提案した。
もちろん、マイを守るのが自分の役目だと承知しているが、マイに、魔法使いとして、自信を持ってほしかったのだ。
自分自身を「情けない」と思ってほしくない……。
「マイは高い能力を持ってるんだ。
魔法を鍛(きた)えれば、今のようなヤツはすぐにでも倒せるようになる」
「そうかな??」
「ああ。俺は、魔法は全然使えないけど、知識はあるつもりだ。
だから、全力でサポートする。
一緒にがんばろ?」
マイの不安や恐怖は、自然と和らいでいった。
「イサやエーテルが一緒にいてくれたら、できそうな気がするよ。
私、がんばる!!」