黒水晶
高さ10メートルほどの杉の木が1本だけ立つ、ただっぴろい草原。
その広大な土地は見通しが良く、ほとんど人が通ることもない。
魔法の特訓をするのには最適な場所だった。
イサはマイの横に立ち、
「じゃあ、まずは、マイの感覚でいい。
頭に自然のエネルギーをイメージしつつ、攻撃魔法を打ってみてくれ」
指示通り、マイは両手を前方に差し出し、瞳を閉じた。
バケツから水をこぼすような感覚で、水流を手のひらから放ち、数メートル前方へと発射させた。
物凄い勢いで水しぶきが舞い、その影響で強風が起こる。
柔らかくも強い水しぶきが、目にも止まらぬ速さで視線の彼方へ消えた。
「なんて威力なんだ……」
イサは目をこらす。
エーテルも鋭い瞳で、
「ええ。とてつもない力ね。
今の攻撃なら、たいていの敵は吹き飛ばせるんじゃないかしら」
そんなにほめられるとは思わず、マイは照れて頬を赤くし、
「そんなことないよっ。
イサとエーテルの方が、大先輩じゃんっ」
と、モジモジする。
イサはクスッと笑うと、
「マイの魔法は強い」
「イサ……」
「ただ、魔法を放つ瞬間に、迷いがあるように見えた。
突然攻撃を受けた時にそうなると、相手のダメージを半減するどころか、急所を狙われ致命傷に至る危険がある」