黒水晶
耳に響く、どちらかというと不愉快な金属音。
ヤリと剣の攻防戦。
「エーテル!! マイ!!
下がってろ!」
イサは叫び、自分の体にヤリが刺さらないよう、剣で男の攻撃をはじき続けた。
男のヤリの使い方を見ながら、イサは考える。
“ローアックス……。
また会うだろうとは思ってたけど、案外早く現れたな。
魔術を無効化する、特殊な能力を持つ男。
こいつはなぜ、俺達の前に現れる?
この間から、エーテルばかり狙ってくるのはなぜだ?
……にしても、コイツのヤリの構え方……。
どこかで見たことがあるような……。
ガーデット帝国の剣術に似てる……”
そう思いはしても、イサはこの男のことを知らない。
当然ながら、執事や兵士、上官など、城の関係者の顔は全て頭に入っている。
よほどのことがない限り、忘れたりはしない。
“コイツは、一体、何者なんだ?”
スキがなく鋭いイサの剣術を破れず、ローアックスはじょじょに疲れをあらわにした。
そこをつき、イサはローアックスのヤリを剣で地平線の方向へはじき飛ばす。
一瞬の出来事。
ローアックスの手元は、むなしく空となった。
「これで終わりだ!!」
わざと急所を外し、イサはローアックスの胸をナナメ切りにした。
「ぐぁあぁーーーー!!」
野太い悲鳴を上げ、ローアックスは仰向けで地面に倒れ込んだ。