黒水晶
「エーテル、なんかカッコイイっ」
マイは未知のことに出会った感動で目が潤んでいる。
「二人は知らなくて当然かもな。
エーテルの使う魔術は、ルーンティア王国の血筋の者しか継承できないから。
他人に教えたら、悪事に使われかねないからっていう理由でね。
強い能力は、本当に選ばれた者だけにしか与えてはいけないんだ……」
イサはなぜか最後の方の言葉を思い詰めたような表情で語る。
マイとテグレンは、それに返す言葉が見つけられず黙っていた。
まるで何事もなかったかのように、一瞬で元通りの様子に戻ったイサは、
「その木、失くすなよっ」
と、マイに笑顔を見せた。
イサがマイたちの前ではじめて笑った瞬間だった。
「コンパクトなのはいいけど、失くしそうだなぁ」
マイは能天気に言った。
「エーテルのおかげで今夜は敵に見つかることはないと思うけど、用心したいから、今夜は俺も外で見張りをする。
マイとテグレンは、明日からの旅にそなえてよく休んでくれ」
「イサ、あんたも、ここまでの旅で疲れただろう?
ガーデット帝国って、ここからはかなり遠いじゃないか。
大丈夫なのかい?」
テグレンは長旅をしてきたであろうイサの体調を気遣った。
「ありがとう、テグレン。
でも、俺は平気だよ。
剣術師は他者の護衛を担うことが多いから、普段からこういう状況を想定して動いてる。
エーテルも寝ずにずっと魔術を使って任務をしてくれてる。
なのに、俺一人だけ休むわけにはいかないからさ」
そう言うと、おやすみと挨拶をして、イサは店を出ていった。
「頼もしい子だね」
テグレンは、立派に成長した孫の背中を見るような顔で言った。
マイもそれにうなずき、
「エーテルとイサってすごいなぁ。
お互い信頼しあってるというか、思いやりあってて……。
友達っていうか、絆があるっていうか……」
と、しばらくの間、イサが出て行った扉を憧れのまなざしで見ていた。
寝ようにも全ての家具や寝具を積み木に変えられてしまったため、マイは急きょ、魔法で寝袋を2つ出現させ、テグレンと共にそれで眠った。
外に出たイサは、満点の星をあおぎ、
「俺たち、ついに再会しちゃったな。マイ」
と、夜闇に向けてつぶやいた。