黒水晶
9 悲しみの行く末
9‐1 戸惑いの王子
数日後。
マイを守りつつ辺りを警戒していたイサは、
「ガーデット帝国まで、あと少しだ」
と、マイとテグレンを安心させるように笑みを見せた。
マイは最近、エーテルの様子が気になっていた。
彼女は元から饒舌(じょうぜつ)なタイプではなかったが、最近のエーテルは極端に口数が少なく、時々、何かを考え込んでいるようなフシがあったのだ。
だが、それはマイの気にし過ぎだったのかもしれない。
マイが尋ねると、エーテルは決まってこう答える。
「今、自然の神の能力が衰退(すいたい)していることで、私の魔術能力も急激に落ちているの。
だから、極力、魔術や体力を使わないようにしてる。
いざというとき、マイを守るために魔術を使いたいから」
優しく微笑むエーテルに感謝しながらも、そう言われるたびマイは切なくなった。
「私、今はイサの指示で魔法使えないフリをしてるけど、いざとなったらドンドン使うから、エーテルは自分の命を一番に考えてね」
「ありがとう、マイ。
でも、私は、国の要人であるあなたを、命に代えても守らなければならない。
いざとなったら、私を盾にしてでも逃げて切ってほしい」
そう言うエーテルの瞳には、迷いなど微塵(みじん)もなかった。
エーテルの立場も分からなくはないが、自分のために友達が死ぬなんて絶対に嫌だと、マイは思った。
うつむき黙ってしまうマイの肩にやんわり手を置き、エーテルは言った。
「マイ、そんな顔しないで。
私、あなたのために死ぬことを恐いだなんて、ちっとも思っていないから。
ルーンティア共和国の王女として生まれ、マイを護衛するというこの任務に就けたことを、誇りに思ってる。
だから、もしこの任務の先で私の身に何かが起きても、マイには自分を責めないでいてほしい」
「エーテル……」
「この間、こんな話をしたわね。
私が魔法に興味があるって。
ずっと、魔法なんて夢の話だと思っていたわ。
でも、こうしてマイと巡り会えた。
それだけで、もう、生きていてよかったと思えるの。
だから、お願い。
マイは、笑ってて」
ルーンティア共和国の王女としてではなく、友達として、エーテルはマイにそう頼んだ。
エーテルの気持ちを聞いて納得はできなくても、マイはうなずくしかなかった。