黒水晶
流れ星が消えた一点を見つめたまま、マイは低い声で不満げにつぶやいた。
「お願い事するヒマなんて、ないじゃん……」
「魔法使いのマイでも叶えられない願い事って、なんなの?」
「……!」
いきなり背後で声がして、マイは冷や汗をかいた。
穏やかな口調でマイに尋ねたのは、他でもない、イサだったのだ。
パーティーで着ていた高級スーツは、イサの正装なのだろう。
彼は、ネクタイを取ってそれを着崩し、
「眠いなあ」
ノンキな事を言いながら、マイのいるバルコニーに足を踏み入れた。
「いつからそこにいたの!?」
マイがしどろもどろに言うと、イサはクスッと笑い、
「ごめん、驚かせて。
何度かノックしたけど、返事なかったし、気になって」
イサはそっと目を伏せ、マイの横に並ぶと、バルコニーの手すりに片手をやり、外の風を感じた。
「私こそ、ノックしてくれたのに気付けなくてごめんっ。
考え事してて……」
「考え事?」
「ううん、何でもない!」
今まで感じていた寂しさを紛らわすように、マイは部屋に戻る。
イサもそれに続いて、バルコニーを出た。
「イサは今まで、パーティー会場にいたの?」
「ううん。パーティーは、マイが出て行った後すぐ終わった。
今まで、執務室に居たんだ。
国王と今後の話をしたり、いろいろな……」
「そっか。パーティーの後にまで話し合いとかしなきゃいけないんだ、大変だね」
イサは冗談ぽくため息をつき、
「ホント、休むヒマもなくてヤになる。…なんて、情けないこと言ってたらダメだな。
それよりマイは、パーティー楽しめた?」
「うん。料理もおいしかったし。
……楽しかったよ」
寂しかった気持ちを隠し、マイは笑ってみせた。