黒水晶
マイとテグレンが食事を終えたと同時に、イサも自分の食事を終わらせ、席を立ち、自分のそばにひかえていた執事に今日の予定を聞いた。
「わかった」
イサの言葉と合わせてエーテルも立ち上がる。
二人は、一瞬だけ目を見合わせると、ダイニングを出て別々の方向に歩いていった。
イサは、ヴォルグレイトの待つ執務室へと足を運んだ。
ノックをして扉を開けると、ヴォルグレイトは机に向かい書類を眺めていた。
いつ見ても、彼はガッチリした体に堂々とした雰囲気をまとっているなと、イサは圧倒される。
そんな父親に近づき、イサは声をかけた。
「国王。訊(き)きたいことがあります」
「なんだ……。
旅の報告なら、昨日中に済ませろと言ったはずだが」
イサは一瞬言葉をつまらせたが、勇気を出して口を開いた。
「そうなのですが……。
他の者がいない場所で、二人きりで話したかったのです」
ヴォルグレイトは、元から険しい目つきを更に鋭くする。
「ほう……。言ってみるがいい」
「マイの住んでいた家には、初めから魔術がほどこされていました。
旅立つ前、私はそんな話を聞いていませんでした。
それに、マイを迎えに行ってすぐの頃、水の神アルフレドと遭遇(そうぐう)しました。
世界各国で自然エネルギーの乱れが起きているせいです……。
アルフレドは、マイの持っている魔法の杖を狙って襲ってきました。
それだけではありません。
ローアックスやフェルトと名乗る魔術師に出会いました。
彼らは、ガーデット帝国のことを良く思っていないようです。
実際、ローアックスはエーテルを襲ってきました。
とっさにマイが助けてくれたので、エーテルは大事に至りませんでしたが……。
国王は、『見知らぬ敵勢力がガーデット帝国に攻め込む』という密告を受けたのですよね?
ローアックスとフェルトは、その関係者なのでしょうか……」
「………………」
ヴォルグレイトは黙ったまま、何かを考えている。