黒水晶
「なんだよ、どういう意味だよ。
見るからに怪しすぎるし……」
イサはフェルトが消えた場所をジッと見つめる。
「あの人の言ったことは本当」
エーテルは告げた。
「なんでわかるんだ?」
「魔術の色と気配に濁(にご)りがなかったから」
エーテルは、しんと静まった夜に心地好く広がる声のトーンでそう言った。
「エーテルには分かるんだな、フェルトの正体が」
「正体までは分からないけど、相手も魔術師だから、波動や気配の色からだいたいのことは分かる。
多分、あの人はイサに会うためにここへ来た。
私たちやマイと争うつもりなら、わざわざ護衛のいる時にここへ来たりしない」
「たしかに……。
わかった。エーテルのこと、信じるよ」
「うん」
エーテルは小さくうなずいた。
フェルトが何者なのかは分からないし、見るからに怪しい男だった。
しかし、マイをずっと見守っていたという彼の発言が真実だとすれば、エーテルの感じたことを信じられるとイサは思った。
「また会えたら、もっと色んなこと聞き出す。
何の話か知らないけど、『俺にもいずれ分かる』とか、気にかかることを言ってたしな」
エーテルはそれに答えず、うつむくだけ。
イサが剣を鞘(さや)にしまうスマートな音が響いた。
もうすぐ夜が明ける。
「じゃあ、引き続き護衛しましょう」
エーテルはそう言うと、魔術のために姿を消した。
「どんな敵からも、マイを守る。
そのために今まで生きてきたんだ。
どんな相手にも負けやしない……!」
イサは、一人小さくつぶやいた。