黒水晶

ヴォルグレイトは荘厳(そうごん)な表情でイサを見やり、言った。

「マイ様の家に魔術がほどこされていたことは、私も知らなかったし、伝えようがなかった。

だが、自然エネルギーの流れがおかしくなっていたことは、私も知っていた。

国に報告も上がっている。

お前達に通達しなかったのは、イサとエーテル様なら、自然の神達が襲ってこようと対処できると判断したからだ」

「ですが!! どんな不要な情報だろうと、異変を知らせるのは常識なのでは?」

イサはヴォルグレイトに反発した。

「マイの護衛が目的の旅だったんですよね?

それならば、危機につながる可能性のある情報は、全てやり取りするべきだったと思います」

イサの訴えを全く聞いていないように、ヴォルグレイトは顔色一つ変えずこう返した。

「お前が言いたいことはわかったが、もういいではないか。

マイ殿は無事にこの城にいらっしゃったのだから。


ローアックスとフェルトについては、敵勢力の一味である可能性が高い。

徹底的に調べさせる」

「本当に、彼らは敵なのでしょうか??」

イサは疑いのまなざしをヴォルグレイトに向けた。

「お前がそんな目をするとはなぁ……。

旅が成功に終わったからといって、思い上がりもいいところだ。

お前はまだまだ、王位を継ぐには若すぎるのかもしれん。

ハッハッハッハッ」

「真面目に話して下さい」

歯を食いしばり、イサは悔しげな表情で父親を見つめた。

「イサ。長旅の中で様々なことに毒され、疲れているのだろう……。

しばらくは旅の予定もないし、城での生活リズムに身を慣らし、本来のお前に戻ってくれ」

「……失礼しました」

やりきれない想いを胸に抱いて、イサは執務室を後にした。

< 150 / 397 >

この作品をシェア

pagetop