黒水晶
ヴォルグレイトは荘厳(そうごん)な表情でイサを見やり、言った。
「マイ様の家に魔術がほどこされていたことは、私も知らなかったし、伝えようがなかった。
だが、自然エネルギーの流れがおかしくなっていたことは、私も知っていた。
国に報告も上がっている。
お前達に通達しなかったのは、イサとエーテル様なら、自然の神達が襲ってこようと対処できると判断したからだ」
「ですが!! どんな不要な情報だろうと、異変を知らせるのは常識なのでは?」
イサはヴォルグレイトに反発した。
「マイの護衛が目的の旅だったんですよね?
それならば、危機につながる可能性のある情報は、全てやり取りするべきだったと思います」
イサの訴えを全く聞いていないように、ヴォルグレイトは顔色一つ変えずこう返した。
「お前が言いたいことはわかったが、もういいではないか。
マイ殿は無事にこの城にいらっしゃったのだから。
ローアックスとフェルトについては、敵勢力の一味である可能性が高い。
徹底的に調べさせる」
「本当に、彼らは敵なのでしょうか??」
イサは疑いのまなざしをヴォルグレイトに向けた。
「お前がそんな目をするとはなぁ……。
旅が成功に終わったからといって、思い上がりもいいところだ。
お前はまだまだ、王位を継ぐには若すぎるのかもしれん。
ハッハッハッハッ」
「真面目に話して下さい」
歯を食いしばり、イサは悔しげな表情で父親を見つめた。
「イサ。長旅の中で様々なことに毒され、疲れているのだろう……。
しばらくは旅の予定もないし、城での生活リズムに身を慣らし、本来のお前に戻ってくれ」
「……失礼しました」
やりきれない想いを胸に抱いて、イサは執務室を後にした。